対応遅れは許されない、アサリ事件は氷山の一角 ~すべての食品にトレーサビリティ制度の導入を~(消費者庁・農水省等宛て意見書)

21FSCW10号
2022年2月8日

食品安全担当大臣  若宮 健嗣様
農林水産大臣    金子原二郎様
消費者庁長官    伊藤 明子様
消費者委員会委員長 後藤 巻則様

食の安全・監視市民委員会
代表 神山美智子
(公印省略)

対応遅れは許されない、アサリ事件は氷山の一角
~すべての食品にトレーサビリティ制度の導入を~

 熊本県産が実は中国産だったというアサリの産地偽装事件が1月下旬発覚、報道されました。行政監視機能の欠陥性が明らかになった消費者の信頼を揺るがす重大事件です。私たち「食の安全・監視市民委員会」は、表示偽装は消費者の権利を省みない極めて悪質な反消費者的行為であると考えます。今回の事件については大きな落胆と怒りを禁じ得ません。消費者庁・消費者委員会発足の契機の一つにもなった「産地表示の偽装防止」が完全に反故にされ、依然として大規模な偽装が実施され、長期間・継続的に偽装食品の販売が放置されてきたという事実は大きな衝撃です。
「アサリ偽装事件」は大きな課題を投げかけています。業界では誰もが知る暗黙の行為だったというのに行政は本当に知らなかったのか、問題が発覚するまでチェックしなかった、あるいはチェックできなかった理由は何か、総じて、産地偽装はアサリだけなのか。2月1日に農水省と消費者庁は連名で各自治体に実態調査の実施を通知し、その結果を踏まえて必要な措置を講じるとしています。しかし、これはあまりに遅きに失した対応ではないのか。その間、多くの消費者が損害を被っており、後手後手行政への不満・不信は高まっています。
食の安全・監視市民委員会は、今回のアサリ事件を産地偽装の氷山の一角と捉え、知らされる権利や選択する権利など消費者の権利の実現を訴え、次の点について要望・意見を表明します。

1.監視体制の整備・強化を求めます
食品表示の偽装を防ぐには事業者の自主的対応に依存するのではなく、行政機関による監視機能の整備・強化が何よりも重要です。事業者依存ではなく、行政の責任として、事業者チェック・監視体制の整備・強化を早急に図って下さい。

2.全ての食品にトレーサビリティ制度の導入を求めます
喫緊の課題としてトレーサビリティ制度の導入・充実・強化に取り組んで下さい。「牛」や「コメ」に示されるように、これまで重大な事故・事件があるたびに不十分ながら、トレーサビリティ制度が個別に導入されてきました。今回のアサリ事件は、まさに「トレーサビリティ」の不十分性を示したもので、しかも、これは「アサリ」に限ったことではありません。制度としてすべての食品を対象としたトレーサビリティ制度の導入を求め、その速やかな検討着手を要求します。

3.申出に回答する制度及び課徴金制度の強化などを求めます
行政の監視体制の整備と共に、市場をウオッチングする最大の武器は消費者の目です。それを活用するためには、食品表示法及び景品表示法で規定されている申出制度について、消費者からの申し出に対し行政がきちんと回答するよう制度を改善するべきです。
さらに、後追い行政では消費者の損害は償われません。悪質事業者をなくすことが第一義です。悪質業者を淘汰するために、違反抑止へ向けて課徴金算定率の大幅なアップを強く求めます。

4.消費者行政の一元化へ消費者庁の司令塔機能の発揮を求めます
食品の表示問題は各省庁に管轄がまたがります。今回の「アサリ」の産地偽装事件では農林水産省と消費者庁が連携対応に務めていますが、現在、不当表示のために出荷停止されている大量のアサリについては今後、加工食品として加工され、外食などにも使用される可能性があります。また、横流し利用の問題もあります。流通の状況把握の調査も必要です。かつて加工食品の横流し事件があったとき、消費者庁は農林水産省、厚生労働省、経済産業省、環境省、警察庁と連携して対応に取り組みました。消費者庁は今こそ司令塔機能を発揮して、消費者行政の一元的対応体制を早急に構築すべきです。

5.事件の原因及び調査の経過、その結果についての情報公開・情報開示を求めます
食品に関する消費者の信頼確保の前提となる「安心」は、行政機関が消費者の権利の確保へ向けた取組をきちんと実施し、その状況を余すところなく消費者に情報提供・情報開示することで醸成されていきます。アサリ事件を氷山の一角と捉え、上記3点を含め、今求められる施策推進の誠心誠意の実施と、偽装事件の原因と経過・調査結果についての情報公開・情報開示を要求します。

以上

<連絡先> 食の安全・監視市民委員会
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