質問と申し入れ(展着剤『パンガードKS-20』・『ホールドガード』について)

10FSCW第2号
2010年6月18日
農林水産大臣 山田正彦様
食の安全・監視市民委員会
代表 神山美智子
〒169-0051 東京都新宿区西早稲田1-9-19-207
日本消費者連盟気付
TEL03(5155)4765 FAX03(5155)4767

質問と申し入れ
 展着剤『パンガードKS-20』・『ホールドガード』に関し、以下のとおり質問と申し入れを行います。ご多忙中恐縮ですが、2010年7月2日までに書面でご回答くださるようお願いします。

第1 事実の経過
1.農林水産省は、昨年8月15日、プレスリリース「農薬取締法に基づく届出と異なる方法で大原パラヂウム化学株式会社が製造した展着剤(てんちゃくざい)に係る報告徴収について」を発表した。
具体的には、匿名の密告に基き立ち入り検査をしたところ、大原パラジウム化学株式会社製の展着剤『パンガードKS-20』(農林水産省登録 第17214号、1989年03月08日)と『ホールドガード』(農林水産省登録 第21963号、2007年05月23日)が、登録内容と異なる有効成分含有量であり、かつ登録内容と異なる成分(モルホリンとオレイン酸)を含んでいたことが発覚した。
そこで、同日、同省は、製造会社・販売会社に対して、(ア)製造方法を変更した経緯、(イ)流通製品に対して講じた措置、(ウ)再発防止のための改善措置について、農薬取締法第13条第1項の規定に基づき報告を命じた。

2.農林水産省は、昨年9月22日、プレスリリース「大原パラヂウム化学株式会社及び大塚化学株式会社が製造した展着剤(てんちゃくざい)の農薬登録失効に係る公告について」を発表した。
本公告によれば、同日、両展着剤が農薬取締法「第6条の5の規定に基づき農薬登録を失効し」、「第6条の7の規定に基づき、その旨公告し」たとあるが、農薬取締法第6条の5第1号の規定による失効日は、インターネットで『登録・失効農薬情報』を見ると2008年08月28日である。
本公告は、上記1に示した両社に対する報告命令に対する回答を受けて発表されたものであり、「長期間にわたり製造方法を変更していたことが判明し」たとある。しかも、有効成分の含有量が届出の含有量よりも低い(届出の20%に対し、9.05%(w/w))うえに、登録内容と異なる成分(モルホリンとオレイン酸が各1%強)が含まれていたのである。ただし、登録内容と異なる成分については「その混入量や当該製品の使用方法(希釈倍数)から判断して、人や魚類の健康に影響を与える可能性は低いと判断し」て、「万が一、当該農薬を農作物へ使用した場合においても、使用基準(ラベル)に従い使用する限りは農薬取締法違反とはならず、農作物への安全性に問題が生ずるものではありません」とある。
ちなみに、「作物残留に係る農薬登録保留基準を改正する件〔平成一四・一二・二四環告八三〕」によれば、モルホリンの混入限度は、第一大粒果実類 0.1 ppm、小粒果実類 5 ppm、第二果菜類 2 ppm、第一葉菜類 1 ppm、第二葉菜類 2 ppm、鱗茎類 0.1 ppm、いも類 0.1 ppmとなっている。

3.各都道府県は、上記2農薬の失効を受けて通知を発し、これを受けたJAは管内で扱う「パンガードKS-20」または「ホールドガード」の販売・使用停止と回収の協力を要請した。ただし、上記2のプレスリリースを受けて、万が一使用しても農薬取締法違反にはならないことが記されている。
なお、各JAでは、これまでの使用農家に直近数年間の「購入金額分を見舞金として支払う」旨を明記した文書が出されている。

4.上記2の公告中にみられる、製造会社が「長期間にわたり製造方法を変更していたことが判明」ということについて具体的に知りたいと農林水産省に質問状を複数回出した農民からの情報によれば、およそ以下のことが述べられている回答が、消費安全局農産安全管理課農薬対策室長から届いている。
・「平成3年夏頃には改変された製品を販売していた」という。『パンガードKS-20』の農林水産省登録は1989(平成1)年であるから、その2年後には改変していた。
・「農薬登録を取得した際の製品」には、「寒冷地での使用には適さないという欠点があ」り、かつ「有効成分であるポリオキシエチレン脂肪酸エステルは非常に高価であった」ため、製造方法を替えたものであり、本来含まれないはずのモルホリンとオレイン酸「の混入は故意に行われたものであると考えます」とある。
・「今回の情報を確認する以前にも、立入検査を実施しておりましたが、このような改変が行われていることは把握でき」なかった。
・立入検査は、各会社で「概ね4年に1度は行って」おり、当該製造会社にも検査に入っているが、「本剤については成分が洗剤などの主成分である界面活性剤ということで、その成分の分析が難しいことから」発見できなかった。
・本剤は、農薬取締法「第7条の表示にある農薬を使用基準(ラベル)に従い使用している限りは法に違反するものでは」ないが、「失効しており、また品質が保証されたものではないため、本剤を使用しないよう関係機関を通じて周知を行」ったものである。ちなみに、ラベルには1,000倍希釈とあるが、現実には400倍希釈で使用する例もある。
・「本事案については、農薬登録の失効ということにしましたが、同社に対して再度行政処分を行うような事案が発生した場合には、告発等も視野に入れた対応を考えて」いる。

5.インターネットで検索すると、過去の農薬検査所による農薬製造場への立入検査結果については、農薬検査所報告に「登録と異なる製造処方で製造されていたので、登録どおり製造するように助言した」とあることなどに関する市民団体からの質問に対して、前記農薬対策室は、農林水産消費安全技術センター(FAMIC;旧農薬検査所)の検査部が調査を行っているが、検査結果の詳細については「農薬取締法に基づく取締に関する内容であり、今後の取締の適正な遂行に支障をおよぼすおそれがあることから、農薬検査所報告に記載のある内容以上のことについてお答えすることはでき」ないと回答している。

第2 質問と申し入れ
1 農薬取締法第14条には、
農林水産大臣は、製造者又は輸入者がこの法律の規定に違反したときは、これらの者に対し、農薬の販売を制限し、若しくは禁止し、又はその製造者若しくは輸入者に係る第二条第一項の規定による登録を取り消すことができる。
2 農林水産大臣は、販売者が第九条第一項若しくは第二項又は第十条の二第一項の規定に違反したときは、当該販売者に対し、農薬の販売を制限し、又は禁止することができる。とあります。
今回の展着剤「パンガードKS-20」、「ホールドガード」の製造方法の改変などが登録取り消し処分ではなく、失効という扱いになったことは納得できません。なぜ登録を取り消さなかったのか、その理由を回答してください。
3 通常の立入検査では不正が発見できず、匿名の密告に基づく立入検査で不正が発覚したという事実は、今回の展着剤「パンガードKS-20」、「ホールドガード」以外にも、より大きな不正が見過ごされているのではないかという、不安と不信を抱かせるに十分な状況にあります。
農林水産大臣は、今日までの間に、市民の不安と不信を解消するための改善措置を講じられたでしょうか。講じたとするなら、その改善策の内容を回答してください。
4 従来の農薬検査所の『農薬検査所報告』は、2007年8月発行の第47号(平成18年4月1日~平成19年3月31日)で廃刊となり、以後、組織改変により農林水産消費安全技術センター農薬検査部が、農薬検査所の業務を引き継ぐことになったのもかかわらず、『農薬検査所報告』は未だに発行されていません。どのような理由で発行を中止されたのか、また再度発行する予定があるかどうか、あるならいつ頃発行する予定であるかにつき、ご回答ください。
5 私たちは、関係企業がみだりに不正を行わないようにするために、立入検査において重大な不正が発覚した場合、『農薬検査所報告』に当該企業名を記載して公表するべきであるとつねづね考えてきました。
農林水産消費安全技術センターは、不正が発覚した場合、報告書、ホームページ等を通じて企業名を含む具体的な情報を公表されるよう申し入れます。

以上