消費者委員会のあいまいさ示す「消費者団体調査報告書」 ~政策提言の保障制度の導入にこそ力を注いでください~

23FSCW第6号
2023年8月23日

消費者委員会委員長 後藤巻則様

消費者委員会のあいまいさ示す「消費者団体調査報告書」
~政策提言の保障制度の導入にこそ力を注いでください~

食の安全・監視市民委員会
共同代表 佐野真理子 山浦康明

 消費者委員会は8月3日、「消費者団体の現状及び今後に向けた論点整理」をまとめ、ほぼ原案とおりの報告書として委員の間で確認されました。この調査は今年4月から同委員会の「自ら調査」として取り組まれてきたものです。「消費者団体の実態調査」と称し、口頭または書面で、適格消費者団体23団体を含む合計57団体を対象に実施されました。報告書には消費者団体の実情や今後の取り組み課題、一般の消費者対象のアンケート調査結果などが盛り込まれています。
私たち「食の安全・監視市民委員会」は、「政策提言」という重要テーマを対象にしている調査だけに、調査の問題点を指摘した意見書を6月に提出し、調査の方向性や的確性に疑問があることを示し、その課題と改善を提起してきました。
しかし、このほどまとまった報告書を見る限り、私たちが懸念したとおりの内容となっており、最も肝心な消費者委員会の調査の意図も不明確のままです。調査目的そのものがあいまいで画竜点睛を欠くという内容です。そのために、せっかくの多面的な調査結果であるにもかかわらず、それを踏まえて消費者委員会が一体何を提起したいのか、ほとんど伝わってきません。
8月3日の本会議での委員の発言には、報告書作成の責任者は誰か、消費者委員会委員の主体性が問われる内容が垣間見えました。
それら課題を前提に、以下、報告書の内容につい質問及び課題を提起します。なお、質問の回答は、9月8日までにいただきたく、よろしくお願いいたします。回答は当会公式サイトに公開することを予めご了承ください。

1.今回の調査報告書の目的・理由を明確にしてください。
報告書は調査の目的として「消費者団体の現状と課題等を明らかにする」としています。しかし、なぜ、「消費者団体の現状と課題を明らかにすること」が必要なのか、この最も肝心な理由が明確ではありません。また「消費者団体が担ってきた政策提言機能を維持していくための重要と思われる論点について整理した」とも述べていますが、「政策提言」自体に対する消費者委員会の認識が極めて不鮮明です。
言うまでもなく、消費者団体の政策提言はほぼ行政機関に対してなされるもので、消費者委員会も対象機関の一つです。一つひとつの政策提言に対する行政機関の回答や、透明性を前提とした対応こそ問題となります。つまり、行政機関が消費者団体の政策提言に回答しないとの認識がまん延した場合、あるいは、「木で鼻を括る」ような回答が続く場合、自ずと政策提言をあきらめる風潮が消費者団体に発生してきます。
結局のところ、消費者委員会が政策提言の維持・強化を消費者団体に求める意図があるなら、消費者委員会は自らを含む行政機関に寄せられる政策提言(意見等)に対する対応結果を真摯に調査することこそ必要です。
現在も政策提言はそれぞれの団体が、「放射性物質汚染処理水の海洋投棄問題」や「マイナンバーカード問題」「特定商取引法改正問題」「遺伝子組換え、ゲノム、機能性表示食品問題」など、時宜に適った内容・手法で提起しています。消費者団体の「政策提言」活動を調査するのなら、提言の要求先である行政機関に対してこそ、その対応状況を調査してください。そうでないと極めて不十分な結果となり、政策提言の実効性など論外となります。今回の「報告書」ではその課題が現実化しました。

2.消費者団体による「政策提言」の政策等への反映状況について示して下さい。
少なくとも現在でも当会を含め活発に政策提言(意見書等の提出など)を提起している消費者団体があります。それに対しては、木で鼻をくくる回答がきたとの批判も多々見受けられますが、政策提言が必要な受け手に届き、どう政策に反映・活用されているのか、という点を検討することは今後の施策推進に重要な論点となります。消費者団体による政策提言について、その政策への反映状況を示してください。

3.「政策提言」の意義と実態について明らかにして下さい。
報告書の「はじめに」の一行目には「行政は消費者の権利を尊重し消費者政策を推進する責務を有する」との「消費者庁及び消費者委員会設置法」の条項が引用されています。その上で、「政策決定過程においては、消費者の意見を聴くことが重要である」とも記載しています。そのとおりです。しかし、行政がその責務を果たさず、消費者の意見(政策提言)を聴かないことから、消費者庁・消費者委員会発足以降も、行政を相手取った「消費者の権利訴訟」が発生しているのです。
消費者の権利を侵害するのは何も悪質業者だけではありません。消費者にとって不利益となる行為を阻止しない各種消費者行政機関も訴えの対象に入るし、実際、被告として訴えられている行政訴訟は多々あります。
今回の報告書は、消費者行政の「推進」と「監視」という二つの機能を持ち、消費者の意見を政策に反映させる役割を担う政府機関である消費者委員会が、その自らの機能・役割を認識しないままにまとめられた、と思わずにいられません。「消費者目線」ではなく「上から目線」がにじみ出ているのです。独立して職権を担う一人ひとりの消費者委員会の委員が、消費者目線から報告書の展開や、文章の記述内容を本当に精査したのか、多いに疑問に感じる内容となっています。
結局のところ、報告書を読んでも「政策提言の維持・強化」を消費者委員会がどこまで重視しているのか、不明です。本当に重視しているのなら、消費者団体からの政策提言に対し、行政機関からの回答を保障する制度的仕組みの導入が必要となります。報告書にはその必要性についてまったく触れていません。私たち「食の安全・監視市民委員会」は6月の意見書で「回答制度」の導入についてこそ「政策提言強化」を保障する施策であり、調査の検討対象とすべきだと提言してきました。

4.消費者委員会は「報告書」に基づきどんな行動を予定しているのですか。
多くの労力と時間をかけて作成された報告書ですが、上記のように、分かりにくい部分が多岐にわたっています。最も端的で重大な問題は、報告書をまとめた消費者委員会自身が、報告書に基づき、今後、どのような対応を考えているのか、その片鱗すら示されていないことです。報告書の「まとめ」では次のように記載されています。
・消費者団体の政策提言というボランタリーかつ公益的な活動の結果として消費者行政が充実・強化され、その利益を多くの人が享受している状況にあるが、行政・事業者・消費者ともに、消費者団体のボランタリズムや専門性にフリーライド(ただ乗り)するだけではなく、公益の実現へ向けて、社会全体として、担い手や資金、情報が蓄積される、消費者問題に関する持続可能なエコシステム(生態系)を構築することが重要である。
・例えば、消費者・消費者団体、行政、事業者、事業者団体、その他(人、物、資金、情報等を含む)が消費者の安全・安心といった目的に向かい、それぞれに役割をもち情報交換し合うことで、相互に影響し支え合い、各参加者にメリットをもたらすことで持続可能性を維持しつつ、社会に価値を提供することが可能となる永続性のある仕組みを構築することが考えられる。
・消費者団体の政策提言活動は、消費者が現在抱える課題の解消や、将来の消費者の不利益の回避を目的としており、その活動のためには、生活に関わるあらゆる分野に関する情報が必要となる。事業者や行政との意見交換や、事業者、行政、消費者からの情報提供が活発に行われることが求められる。
傍観的で表層的な認識ですが、これら指摘の中には2015年の消費者委員会報告書の焼き回しもあり、新しい内容が盛り込まれているわけではありません。問題は、消費者政策分野での「持続可能なエコシステムの構築」「価値提供の永続性ある仕組み」「消費者団体の政策提言活動への関係機関との意見交換、情報提供の活発化」などの取り組みをどうしたら保障・推進できるのか、という点です。政策提言について推進を語るのなら、現在は「課題の解釈」ではなく、推進を保障する「行動提起」の時期ではないでしょうか。
消費者委員会がどんな行動を提示するのか、それが問われているのです。

5.政策提言機能について消費者委員会が考える環境整備とは何でしょうか。
何よりも消費者委員会が具体的行動の必要性を認識すべきなのは、報告書の「おわりに」を読んでも感じられます。そこには「雲上の声」のような響きで、まさに「上から目線」と言ってもよい次のような記述があります。
・消費者団体が担ってきた役割の一つに、消費者の意見を表明する、いわゆる政策提言機能があり、それは行政のみならず、事業者や消費者、社会全体にとっても重要で、公益的な活動と考えられる。この点に関して消費者庁をはじめとする各行政機関は、政策への消費者の意見反映をより実効的に進める観点から、継続的に消費者団体の現状について把握し、活動の環境整備に努めるべきである。
私たち「食の安全・監視市民委員会」は、これまでも消費者委員会に対し、意見を表明し、質問を提出してきました。しかし、それらへの消費者委員会の対応は、常に、消費者委員会自身が正面から課題に向き合うのではなく、ほとんどが納得ある回答を避けるものでした。
それだけに、消費者委員会が提示する「活動の環境整備に努めるべき」とする「環境整備」とは何か、興味津々です。環境を整備するために、まずもって、消費者委員会こそ何をどう改善し、どのような活動に取り組む意向なのか、その点こそ消費者に明らかにすべきだと思います。
なお、報告書には、「継続的に消費者団体の現状を把握する」ことを各行政機関に求めていますが、自主的に組織し活動している消費者団体に対し、「把握する」ことの必要性があるのはなぜか、この点は消費者委員会の特性に合わない、あまりに乱暴すぎる提案と思われます。

以上