「プリオン評価書(案) ~牛海綿状脳症(BSE)に係る食品健康影響評価」に対する公開質問状 及び同「評価書案」の白紙撤回を求める要請書

2012日消連第24号
2012FSCW第7号
2012年10月10日
食品安全委員会 委員長 熊谷進様
プリオン専門調査会 座長 酒井健夫様
食の安全・監視市民委員会
代表 神山美智子
特定非営利活動法人日本消費者連盟
共同代表 天笠啓祐
古賀真子
真下俊樹
山浦康明
9月5日付プリオン専門調査会の「プリオン評価書(案)
~牛海綿状脳症(BSE)に係る食品健康影響評価」に対する公開質問状
及び同「評価書案」の白紙撤回を求める要請書
 私たちは消費者運動、市民運動の中で食の安全に取り組んでいる団体です。食品安全委員会のプリオン専門調査会は9月5日「プリオン評価書(案)~牛海綿状脳症(BSE)に係る食品健康影響評価」(以下「評価書案」)を公表し「牛海綿状脳症(BSE)対策の見直しに係る食品健康影響評価」をまとめました。それらの評価はBSE対策の国内措置、貿易措置を緩和してもよい、と結論づけています。その評価の方法及び緩和の根拠、内容には以下のように問題があると考えます。各項目につき納得のいく説明をお願いいたします。
ご回答を10月24日までに文書でお寄せいただきますようお願いいたします。
1、BSE検査について、30ヶ月齢以下を不要とする、との評価の根拠について具体的な説明を求めます。

(理由)
厚生労働省からの諮問「検査月齢対象を30ヶ月齢超に緩和してもよいか」に対しては、「評価書案」では、国内対策の対象の牛および牛肉製品、米国カナダ、フランス、オランダからの輸入牛肉ともに、全頭検査および20ヶ月齢超の検査を30ヶ月齢超にした場合でも「リスクの差は非常に小さく、人への健康影響は無視できる」、としています。その主な理由は、①日本を含む5カ国では04年9月以降生まれたものにBSE感染牛はいないこと、②肉骨粉などの飼料規制がBSE発生を抑制したので30ヶ月齢超としても問題はない、というものですが、①については、統計上(12年9月OIEウェブサイト情報、「食品安全委員会、12年9月意見交換会資料2「BSE対策の見直しに係る食品健康影響評価(案)の概要について」9頁)減少したということにすぎません。世界では2010年に45頭、11年に29頭、12年に米国の4月の確認を含め7頭がBSEに感染していることがわかっており、飼料規制以外の因果関係も検証すべきです。

日本では21、23ヶ月齢のBSE牛(03年)も見つかり、そこではBSEプリオンの存在も確認されています。12年4月に米国で発見された1頭も含め、これらは非定型であったとして過小評価されています。しかしL-BSE型(日本の23ヶ月齢もこれに該当)で人への感染の可能性があることは「評価書案」でも認めています。また非定型は白だとはいえずまた科学的に「分からない」ことが多いことも「評価書案」は認めています。
感染源や感染経路、その防止のための方法が完全に究明されているとはいえない中、なぜ、全頭検査及び20ヶ月齢超の検査を30ヶ月齢超にした場合でも「リスクの差は非常に小さく、人への健康影響は無視できる」のかを、統計的評価やBSEプリオンの感染力の大小という評価だけでなく、BSE根絶の証明をBSE発症の因果関係を明確化して行なう必要があります。

2、飼料規制が世界的にも強化され、BSEの発生を抑制している、と評価していますが、文献によって制度を調査したにすぎず、飼料規制の各国での実体は明らかではありません。具体的にどのように調査をし検証したのか説明してください。

(理由)
飼料規制については米国の制度が強化された、と評価していますが、食品安全委員会が現地調査をして自ら確認したものではなく、また米国では豚や鶏の餌などから「交差汚染」の恐れもあると言われています。また米国でのBSE検査はサーベイランスにすぎずスクリーニングを行なっていない以上市場にBSE感染牛が出る恐れがあります。BSE検査も年間4万頭あまりにとどまっていることからBSE発生のおそれは今でもあるといえるのです。このような状況で、米国の牛肉の輸入条件の緩和につながる評価がなぜできるのかを具体的に説明すべきです。

3、食品安全委員会が30ヶ月齢以下の牛の特定危険部位(SRM)の除去をリスク管理部門が行わなくてもよいと判断している理由を具体的に説明してください。

(理由)
「評価書案」はSRMの除去についても規制緩和することを認めています。日本では全頭からSRMを除去していますが、「評価書案」は30ヶ月齢以下のSRMは除去しなくてもBSEのリスクの差は小さいとしています。
日本の自治体のと畜場でそうした対応をすぐにとることはないでしょうが、引き続き予防原則にもとづき全頭からSRMを除去することによりvCJDのリスクをゼロに近づける必要があります。

4、以上より、BSE検査について、30ヶ月齢以下を不要とすること、飼料規制とBSE発生の因果関係は証明されたとの前提に立っていること、30ヶ月齢以下の牛のSRMの除去をリスク管理部門が行わなくてもよいと判断していると受け取られること等、この「評価書案」は米国からの輸入牛肉について大幅な規制緩和にお墨付きを与え、TPP参加のための条件を作る政治的意図を持っていることが疑われます。10月10日まで行われたBSE対策に関するパブリックコメントにおいても、こうした「評価書案」をもとにした意見募集では、消費者の意見を的確に行政に反映させることはできません。食の安全を犠牲にし、米国の意にかなった規制緩和を認めることにつながるこのような「評価書案」は白紙撤回することを要請します。

以上