塩の検査分析調査の結果の報告

塩の検査分析調査の結果の報告

2020年12月24日
食の安全・監視市民委員会
代表 神山美智子

はじめに
昨年の総会にて食品中のマイクロプラスチック汚染の本質を探り、食の安全を守る決議を採択したことに基づき、その第一弾として食塩中のマイクロプラスチック残留検査を実施することにしました。その後、新型コロナによる社会情勢のため活動に遅れが生じ、検査費用をご寄付いただいた皆様へのご報告が遅くなりましたことをお詫びいたします。
2016年に欧州食品安全機関(EFSA)が発表した食品中のマイクロプラスチック及びナノプラスチックに関する声明では「食品中のマイクロプラスチック及びナノプラスチックは、潜在的な食品安全事案として注意が促され、(1)食品中のマイクロプラスチックの存在量、(2)消化管におけるそれらの動態、(3)それらの毒性に関するデータを生成することが望ましいとしています。
私たちのような市民団体にそれらを実現することはできませんが、会員の皆様や市民の皆様のご協力をいただくことによって、少しでも現状を掘り起こすことができれば、国や企業に提言や呼びかけを行う力になると考えております。今後ともご理解ご協力をよろしくお願いいたします。ありがとうございました。

検査結果
依頼項目:市販食塩のマイクロプラスチック検査
検体名(サンプル名):市販されている家庭用塩(8試料)。試料とした塩は、小売店、スーパー、デパート等で購入し持ち寄ったものです。

 商品名製造者(所)/販売者表示
なるとの塩鳴門塩業(株)原材料名:海水(鳴門)/工程:イオン膜、立釜
国産しお(株)日本海水 讃岐工場/イオン(株)原材料名:海水(瀬戸内)/工程:イオン膜、立釜、乾燥
瀬戸のほんじお日本家庭用塩(株)/味の素(株)原材料名:海水(岡山)/工程:イオン膜、立釜
ジャパンソルト(株)/(株)八社会原材料名:海水(瀬戸内)/工程:イオン膜、立釜、乾燥
天海の平釜塩(天塩)赤穂化成(株)/ (株)天塩高知県の海洋深層水使用。採水地は高知県室戸沖2200m・水深344m
海の精ほししお海の精(株)原材料名:海水(伊豆大島)/工程:天日
五島灘の塩(株)菱塩原材料名:海水(長崎県)、クエン酸鉄アンモニウム/工程:イオン膜、立釜、混合
日本海水日本海水幅広く愛用されている、国内で海水からつくられる塩

■結果一覧

試料名形状  色  大きさ備考
なるとの塩観察されず
国産しお観察されず
瀬戸のほんじお観察されず
観察されず
天海の平釜塩繊維片 青色 1.3mm

繊維片 青色 1.6mm

繊維片については別途FTIR法により材質の確認
海の精ほししお観察されず
五島灘の塩観察されず
日本海水観察されず

※分析機器 デジタルマイクロスコープVHX-500(KEYENCE)

 

検出された繊維片のFTIR分光法による分析結果

 試料名形状  色  大きさFTIR分析結果
天海の平釜塩繊維片 青色 1.3mmポリエチレンテレフタレート
繊維片 青色 1.6mmポリプロピレン

※分析機器 デジタルマイクロスコープVHX-5000(KEYENCE)/赤外顕微鏡システムAIM-8800(SHIMADZU)

「FTIR 分光法は、学術機関ラボ、分析ラボ、QA/QC ラボ、法医学ラボなどで幅広く利用されます。単純な化合物同定からプロセスおよび規制モニタリングまで、あらゆるシチュエーションで使用されるFTIR は、幅広い化学アプリケーションに対応し、特にポリマーや有機化合物に有効」

検査機関名:株式会社 食環境衛生研究所(群馬県前橋市荒口町561-21)

最終報告日:2020年10月30日

 

■検査の経過

世界の塩の生産量は年間約2億8千万トンです。日本は年間約750万トンを輸入しており、世界有数の塩の輸入国で、自給率は11%程度と主な塩の生産国と比べ低い数値です。日本の塩の生産量は100万トン弱で、国内で食用に使われる塩をほぼまかなえる量となっています。

塩の検査はすでに他のNGOが韓国の大学研究室と協力して行い、39銘柄中36銘柄の塩からマイクロプラスチックを検出したと発表しておりますが、その中に日本産は含まれていませんでした。そこで一般的に流通している塩を検査してみることにいたしました。

当初、海水総合研究所で検査を引き受けてくれるとの情報により、2020年4月には依頼を検討していましたが、熱分解-GC/MS法で1試料当たり3万円(1mg/kg)であったため、もう少し費用や測定結果の検出限界を調べてみてはとの意見もあり、様々な検査機関に問合わせを行いました。環境中のマイクロプラスチックは検査しているが、食品になると、分析手法が確立されておらず、まだ引き受ける状況にはないという検査分析機関が多く、世界の研究者の研究結果が次々に発表されても、まだまだ日本の現状は身の回りの事例としてお知らせできるような社会体制になっていないことを痛感しました。

コロナ禍で出足が遅れましたが、8月には代表の神山と運営委員が訪問して意見交換を行った食環境衛生研究所(以下食環研)にて、1試料当たり1万円で、デジタルマイクロスコープVHX-500(KEYENCE)による検査を依頼することにいたしました。試料を5mmでふるい、精製水に溶解後、グラスファイバー(0.1 mmまでは通り抜けない)による濾過を行い、電子顕微鏡にて観察する方法で、8試料中7試料ではマイクロプラスチックは観察されず、試料の1つから2つの繊維片が検出されるという結果になりました。その後、検出された2つの繊維片について、FTIR(赤外光分析)による材質検査を食環研に依頼し、1つはポリエチレンテレフタレート、もう1つはポリプロピレンであることが確定しました。

 

■今後について

以上の結果を受けて、12月2日に当該メーカーに質問状を送りました。質問内容は、「今回のマイクロプラスチックの残留について、貴社として考えられる原因はありますか。あれば、教えてください」「マイクロプラスチックの混入・残留について特に対策は行われていましたか。行われていた場合、その対策を教えてください」「貴社の食塩の生産工程を海水の採取から容器包装への充填まで順を追って教えてください。それぞれの工程を行う目的をわかりやすくご説明ください」といったものです。12月24日現在、回答は届いておりません。回答が届き次第、当会のホームページ等に掲載する予定です。

今後は東京都への意見書提出も予定しています。そして、来年以降は、出汁パックを煮出した場合のプラスチックの溶出とその容器包材である袋の材質表示などについて、検査分析や質問状の送付等を行う予定です。市場の魚介類なども検討していきます。そして、いくつかの検査結果などをふまえた提言を東京都や国に出していくことを目標にしています。いただきましたご寄付が残っておりますので、今後の検査費用に使わせていただきたいと思います。食と環境の専門委員会の設置の際に予定しておりました学習会の開催が遅れておりますが、コロナ第3波が一段落してから改めて検討いたします。現時点では予定はたっておりません。

今回、古典的で単純な検査手法でも、残念なことに市販の塩からマイクロプラスチックが検出されてしまいました。地球上のありとあらゆるところからマイクロプラスチックが検出されているのです。海からだけでなく、生態系からも、大気からも、雨の中からも、です。プラスチックは製造時の添加剤や焼却時に生成される化学物質副産物の問題に加えて、ビスフェノールA(BPA)、カドミウムや鉛のような金属、難燃剤、過フッソ化合物(PFAS)、フタル酸エステル類などの有害な添加物の多くはヒトのホルモンに作用する内分泌かく乱物質として知られています。また、がん、心臓疾患、肥満と糖尿病、先天的欠損症、生殖系、免疫系、及び神経系への影響を含む様々な健康問題に関連しているという様々な研究結果が報告されています。

こうした環境の下で、命の糧である食の安全を、どのようにすれば守っていけるのか、食の安全・監視市民委員会にとって重要な問題です。プラスチックの排出を止めなければなりません。日本もレジ袋の有料化にとどまらず、少なくとも使い捨てプラスチックの製造、使用の禁止に踏み切るべきです。次世代のためにも、プラスチックの製造や使用を必要最低限まで減らさなければならないはずです。今後は、そのことを訴えていくと同時に、暮らしの中の食の安全の視点から一般市場に流通する食品を調べ、情報提供を広く行っていく活動を継続する予定です。皆様からのご意見やアドバイスをぜひいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。