食品に含まれる放射性物質の評価書(案)についての意見

食品安全委員会によるリスク評価への意見
食品に含まれる放射性物質の評価書(案)について
食の安全・監視市民委員会
意見「このリスク評価は次の理由からやり直すべきである」
1.「生涯累積で100ミリシーベルト」という数値が大きすぎる。近年においては、恒常的な低線量放射線による内部被爆の危険性は、従来考えられてきた以上である旨の学説や報告などが相次いでいる。従って、食品安全委員会の答申にあるように、現段階では科学的に確定的な事が言い難いというのであれば、いわゆる「慎重原則」の立場から、十分に低い線量をもって限度規制値とするようなリスク評価を行うべきである。

2.「放射線による影響が見いだされているのは、通常の一般生活において受ける放射線量を除いた生涯における累積の実効線量としておおよそ100mSv以上と判断した」、「追加の累積線量として100mSv未満の健康影響について言及することは現在得られている知見からは困難であった」との評価は、安全性の確認をするという姿勢でない点で問題があり、かつ、通常の一般生活において受ける放射線量を除いた生涯における累積の実効線量が100mSv未満の場合はあたかも安全であるかのような誤解を与える表現であって不適切である。この点は、これまでの科学的知見においては、累積線量として100mSv未満の健康影響について安全であると確認できないとすべきである。

3.外部被ばくと内部被ばくをあわせた疫学データを前提とする文献等による検討では、不十分であり、内部被ばくに関する資料をさらに調査し、福島第一原発事故による内部被爆者の健康影響も検討するなど、さらなる調査をした上で、リスク管理に指標を与えることができるよう、また、安全性を確認するという姿勢をもって、食品中に含まれる放射性物質について健康影響評価をやり直すべきである。

4.放射性セシウムやヨウ素以外の核種、すなわち放射性ストロンチウムやコバルト、あるいはキセノンなど、福島第1原発から環境に放出されたすべての放射性核種について、そのリスク評価を行い、必要なもののうち暫定規制値にない放射性核種については、限度数値を新たに導入すべきである。たとえば放射性ストロンチウムについて、現下の暫定規制値には定めがないことを何故「否」とする評価を行わないのか(多くの海外諸国でストロンチウムの規制値が定められている)。

5.胎児、乳児、子供、青年、妊娠の可能性のある若年齢の女性など、放射能による被曝にセンシティブな層があり、それについて食品安全委員会でも胎児、乳児、子供、青年、妊娠の可能性のある若年齢の女性など、放射能による被曝にセンシティブな層があると食品安全委員会でも言及しているにもかかわらず、その層についての特別なリスク評価なり限度規制値の設定方法なりを具体的に示していない。

6.今回の食品安全委員会のリスク評価では、もっぱら遺伝毒性と発ガン性に着目し、それ以外の放射線被曝による各種の病気や健康障害については軽視されている。放射能が人体にもたらす害悪は多方面にわたるのであり、特に上記で述べた恒常的な低線量放射線による内部被爆の危険性については、もっと慎重かつ前広な被曝防止への対策を促す答申とすべきである。免疫系、神経系、循環器系、内臓、生殖器など、人体を形成し機能させている生理に即して、もっと綿密なリスク評価がなされるべきである。

7.今回の評価書案で示されたものは、放射線による影響が見いだされているのは、通常の一般生活において受ける放射線量を除いた生涯における累積の実効線量としておおよそ100mSv以上という指標だけである。ここにいう、累積線量100mSvは、外部被ばくと内部被ばくの双方を含むというおおざっぱなものであるうえに、添加物の指定のように個別の添加物についてADI(許容一日摂取量)を定める等の方法に比べれば、ヒトの一生涯の摂取量を示していること、また、全ての飲食物を包含した摂取量であることなど、あまりに包括的すぎて、飲料水、牛乳・乳製品、野菜類、穀類、肉、卵、魚など、個別の食品ごとの許容摂取量を決める手立てが見いだせない。また、小児は、放射線の影響を受けやすいと言いながら、小児と大人での許容摂取量の差異を見いだすこともできない。このような評価では、食品ごとの放射性物質による健康被害を防止するためのリスク管理のあり方について、具体的な手がかりを示しておらず、リスク管理機関において、規制値を定めることは困難であって、無意味である。

8.健康影響評価は、食品安全基本法では、「人の健康に悪影響を及ぼすおそれがある生物学的、化学的若しくは物理的な要因又は状態であって、食品に含まれ、又は食品が置かれるおそれがあるものが当該食品が摂取されることにより人の健康に及ぼす影響についての評価」とされ、「その時点において到達されている水準の科学的知見に基づいて、客観的かつ中立公正に行われなければならない」とされている。そうすると、資料が乏しく、その時点において到達されている水準の科学的知見に基づくと、ある要因について健康影響に影響があるか否かについて、あるともないとも明確にいえない場合、「健康影響について言及することは現在得られている知見からは困難であった」という表現を用いることができるように一見思われる。
しかし、健康影響評価は、食品の安全性の確保に関する施策の策定のために行うものである。従って、ある要因が安全であるのか危険であるのか、危険性の程度はどの程度かなど、リスク管理を適切に行うために必要な評価をする必要がある。この点、科学的知見から明確に言いがたい場合の対応が問題となるが、食品中に含まれていなかったものが食品に添加されたり、新たな加工方法に用いたりする場合は、そもそも、摂食の歴史的な経験がないので、 伝統的に摂食していた食品など、歴史的な摂食の経験から、判断の目安があるものにくらべて、いかなる危険が存在するのか未知であり、安全という前提に立てない。従って、健康影響評価において、安全であるかいなかの調査を徹底し、科学的知見から明確に言いがたい場合には、安全性は確認できないと評価するべきである。

9.最後に、現下の飲食に係る暫定規制値は、「暫定」とされながらも、もう既に福島第1原発事故から半年近くが経過してしまっている。数値自体を「暫定」としてやむなく決めたため、大きすぎるにもかかわらず、世間ではこの数値を下回れば安全であるかのごとき言説が絶えない。汚染されたものは、たとえ暫定規制値を下回っていようとも、極力食べることのないよう努力すべきであることを、食品安全委員会として表明すべきである。

以上